メールレター購読者さま こんにちは! 夏の終わりから台風が立て続けに来るようになってしまいました。 10号は、フラフラ、グズグズでイヤになりますが、皆さんご無事でしょうか? 東京はこれからだと思いますが、気が滅入ります。   今年の夏は、生まれ故郷の蒲郡で花火大会を楽しみ、そのあと、講演会で再訪しました。 家族揃っての花火鑑賞で、市役所の方が良い席を取ってくれたお陰で、ゆっくり堪能しました。 住んでいた期間が長いので、故郷というと、北九州の印象の方が強いのですが、親類が住んでいて、蒲郡もよく訪れていたので、行くとやっぱり懐かしいです。 今回、講演では僕と蒲郡市との縁について、四代ほど遡って簡単に触れたのですが、地元の方が、温かく迎えてくださったことに感動しました。 愛知県の三河の方の人にしかわからない話ですが、僕の曾祖父は、蒲郡市の前身の一つである三谷町長を務めていて、現在の三河三谷駅が作られたことは、その功績の一つだとか。 あと、その子供、つまり、僕の祖父に当たる平野優という人は、地元で文芸同人誌を主宰していて、博物館に所蔵されているその10号ほどを見せてもらいました。回覧同人誌という形で、つまり、印刷はせず、集めた原稿を綴じただけなのですが、装幀のデザインがモダンで、なかなか立派な本でした。1933年頃なので、日本が国連を脱退したり、血盟団事件が起こったり、或いは谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』が書かれたり、……というような時代です。祖父は、小説ではなく、エッセイのようなものを書いていますね。僕は父方と母方の両方の特徴のブレンドのような感じがしますが、文学好きの一つのルーツかもしれません。 父方の実家は、あの辺の繊維業を営む会社で、二代目社長の祖父は、「趣味人」的な人だったと伝え聞いていましたが、まさか、同人誌を主宰していたとは知りませんでした。 トーマス・マンの『ブッデンブローク家の人々』の感じが、何となくわかるのも、この父方の家系のせいかもしれません。   お盆は、母方の実家のある北九州に帰省しました。 海外旅行も良いですが、母もまだ元気ですし、姉の家族もいますから、盆や正月にみんなで集まれるうちは、なるだけ、そうしたいと思っています。   文学の森は、今月はボードレールの『悪の華』について、野崎歓さんとたっぷり二時間、お話ししました。 僕は、本当にボードレールが好きで、思想的にも文学的にも、多大な影響を受けましたが、そういう話をゆっくり出来る相手は、そう多いわけでもありません。もちろん、野崎さんは仏文の専門家ですから、僕の方は色々と学ぶところが大きかったのですが、それでも、上品で柔軟で寛大なお人柄で、こちらの勝手な解釈も良い機会だと思って存分に聴いていただきました。アーカイヴ動画もありますので、ご興味のある方は、是非!(*1)   そう言えば、僕のソーシャル・メディアのアカウントは、Xが最近、とうとう20万人を超え、インスタも1万人を超えました。まあ、X(Twitter時代から)の方が長くやっていますが、ただ、それだけでなく、やはり小説家なので、写真メインのインスタより、文章メインのXの方がフォロワーが多いのもわかる気がします。 とは言え、インスタは記録をストックしていくのに良いですね。写真を色々アップしてますので、良ければご覧下さい。 ついでながら、僕はあと、フェイスブックだけでなく、LINE公式アカウント、noteのアカウント、そして実は、Youtubeチャンネルまで持ってます。まあ、スタッフが管理してくれてるのですが。(*2)   10月はいよいよ、短篇集『富士山』が刊行されます。 装幀のデザインも決まり、刊行に向けて、準備が整ってきています。 皆様、どうぞ、乞うご期待!   といったところで、少し長くなりました。 台風と残暑にどうぞ、お気をつけ下さい!   平野啓一郎 ■■■ *1 「文学の森」参加後は、過去に行われたライヴ配信すべてのアーカイヴ動画をご覧いただけます。 https://bungakunomori.k-hirano.com/about *2 平野啓一郎のSNS一覧はこちら X:https://x.com/hiranok Instagram:https://www.instagram.com/hiranok/ Youtube:https://www.youtube.com/@keiichirohirano2604 note:https://note.mu/hiranok ■■■ こんにちは! スタッフの岡崎です。関東では今朝から本格的な雨が降りましたが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。 実は、来月の「文学の森」は、1年ぶりの特別オフラインイベントを開催します! 都内会場にて、10月刊行の短篇集『富士山』に収録されている短篇「息吹」をテーマに、読書会をします。 前半は平野さんに創作背景を語っていただいた上で、後半はグループに分かれて感想を語り合います(終了後は懇親会も!)。 読書会パートでは、平野さんも各テーブルを回りますので、著者本人に直接作品の感想を伝えられる貴重な機会でもあります。 40名限定の先着順ですので、ご興味のある方はチェックしてください! 詳細はこちら:https://bungakunomori.k-hirano.com/contents/e664740c4094 さて、後半では、今年3月にアメリカ・カナダで開催された「北米日本文学フォーラム」について、平野さんが委員長として書いた報告書をお届けします。平野さんの海外での活動、北米における日本文学の広がりについて、一端を垣間見ることができる内容です。 ぜひお楽しみください。 ■■■ 北米日本文学会議報告 平野啓一郎 ■■■    今年3月16日にアメリカのシアトル、18日にカナダのバンクーバーで、日本ペンクラブ国際委員会の企画による「北米日本文学フォーラム」を開催しましたので、委員長として報告致します。  北米日本文学フォーラムは、私が委員長に就任する以前も、過去に二回、カナダで開催しており、今回は三回目でした。共催は国際交流基金です。  国際委員会は、日本から作家や詩人、研究者、翻訳者等を派遣し、海外で日本文学、特に現代日本文学の紹介を行うことに努めておりますが、北米での本企画は、カナダ文学研究者であり、国際委員会副委員長の佐藤アヤ子氏の尽力によるものです。日本ペンクラブの会員の多様性、高い専門性が、個人のリソースを通じて、豊かな活動を実現していることを、改めて実感した次第です。  企画内容は、講演が一般的ですが、複数派遣が可能な場合は、シンポジウムを行うこともあります。  尚、北米日本文学国際フォーラムに関しましては、国際交流基金との共催という形を取っております。  単独開催の場合、物理的にも、資金的にも、また人的にも、日本ペンクラブの負担が大きく、企画の趣旨を理解し、良好な関係を維持している国際交流基金に協力を仰ぐことが適切と考えております。幸い、基金側も、現地での活動に於いては、日本人作家の来訪と滞在、講演活動等のイヴェントを歓迎してくれ、企画内容の検討にも参加してくれました。また、出国前の準備として、ホテルや飛行機の手配、アメリカ、カナダ入国のためのESTA、ETAの登録代行など、大いに助けられました。  過去二回のカナダでのフォーラム開催では、国際交流基金が資金面でも全面的な支援を行ってくれ、日本ペンクラブからの支出はありませんでした。しかし、昨今の予算削減と為替の状況により、国際交流基金も、活動資金の捻出に苦慮しているようで、今回は、国際委員会を通じて十万円の共済金を提供しました。  為替の円安は、今後も予断を許さない状況で、殊に、日本ペンクラブの中でも、国際委員会はその影響が大きく、懸念材料となっております。今後の同フォーラムの継続に当たっては、日本の出版社等にも協力要請を行う予定です。    シアトルでのフォーラムは、全米アジア学会の一企画として位置づけられ、ヒルトン・ホテルのコンベンション・センターで開催されました。  全米アジア学会(AAS)は、アメリカの学術団体で、アジアを専門分野とする研究者の連絡と情報交換を目的とし、創設は、1941年と歴史があります。  この学会はアジア研究者の最大の組織で、約八千人の会員が所属しています。  学会誌は『アジア研究ジャーナル』で、アジア全体を研究対象としています。ASSは毎年異なる都市で四日間の年次大会を開催しており、四百件近いパネルや展示が企画されます。また、アジア研究者の業績を表彰する賞も設けられており、多くの著名な研究者が受賞しています。  今回は、準備期間の短さもあり、国際委員会の委員長である私が出席し、『私とは何か?という問い』と題して講演を行いました。  国際交流基金は、トロント・センターが中心でしたが、シアトルでは、ニューヨーク、ロサンゼルスからもスタッフが参加し、協力してくれました。  フォーラムでは、まず、山本訓子トロント・センター所長が挨拶をし、次いで、コーディネーターの佐藤アヤ子氏による平野啓一郎の紹介、フォーラムの意義、日本ペンクラブの昨今の委員会活動が報告されました。  私自身の講演は、個人的なチャレンジとして、原稿を準備して英語で行いました。一つには、講演時間が質疑応答を合わせ、六十分しかなく、逐次通訳であると、時間的に内容が限られてしまうからです。もう一つの理由は、経験的に、通訳のレベルが一定でないことを懸念したためです。シアトルでは、幸運にも、非常に有能な通訳者に恵まれましたが、必ずしも毎回そうとは限らず、これは国際交流の大きな課題です。  聴衆は、大半が全米アジア学会の関係者で、広報により、現地在住の人も混ざっていましたが、アジア全般の研究者なので、まず日本語を介さない人も多く、また、日本研究者でも経済分野の専門家などの場合、必ずしも日本語に堪能なわけではなく、英語のスピーチは歓迎されました。しかし、その一方で、せっかく日本人が講演をするのだから、日本語で聞きたいというニーズもあり、質疑応答は通訳を交えて日本語で行いました。これは、私の不十分な英語力の問題でもあります。  今後、日本ペンクラブから、会員/非会員に参加を要請する場合、もし、英語でのスピーチを希望する場合には、原稿作成の支援は、一つの課題だと感じました。私自身は、DeepLを参照しつつ、最終的には知人のネイティヴ・スピーカーに原稿を見てもらいましたが、必ずしも簡単なことではありませんでした。  講演は、もし、日本ペンクラブが、ゲストとして日本の作家を招待している場合は、まさにそのスピーカーの個人的な話が、そのまま「現代日本文学の紹介」となり得ると思いますが、今回は、国際委員会の委員長という私の立場もあり、もう少し広く、日本の現代文学の状況について紹介したいと考えていました。  ただ、その場合も、一小説家として、自分の同時代の作家たちを一人一人取り上げ、網羅的に、公正に紹介してゆく、ということは非常に困難ですので、私は自分を例に出しつつ、ロスジェネとも称される団塊ジュニア世代の世代論を中心に話し、その前後の世代との比較を含め、今日、活発に翻訳紹介されている現代日本文学が、どのような時代的な、社会的な背景を有しているかを説明し、聴衆の読解の一助となることに努めました。  質疑応答は活発で、夏目漱石のアイデンティティのあり方など、踏み込んだ議論もありました。また、芥川賞選考委員として、最近の文学動向についても触れました。  講演会前後には、国際交流基金のスタッフが車で市内の視察に同行してくれ、食事も共にしました。コロナ渦中は、シンポジウム等もオンラインで行わざるを得ませんでしたが、やはり、イベントそのものもさることながら、こうした前後の時間での体験が、殊に文学者の場合、に重要であることを実感しました。  シアトルからバンクーバーへの飛行機の移動は僅かな時間で、移動日の翌日、18日にブリティッシュ・コロンビア大学アジアセンターでのフォーラムで、二度目の講演を行いました。内容は同じです。バンクーバーでは、国際交流基金からは、トロントのスタッフのみが参加しました。  講演会の前後で、やはり市街地の視察を行いましたが、カナダ政府が、先住民の文化に対し、いかに敬意を払い、法的・政治的な保護に努め、共存を進めているかを知り、大いに啓発されました。日本でも、アイヌに対する差別など、未だに嘆かわしい状況が続いていますが、バンクーバーで実見した取り組みは、学ぶべき点が多かったです。  シアトルでの講演に比べて、バンクーバーは大学生の参加者が多く、進路の悩みなど、アイデンティティを巡る不安は、普遍的なテーマであることを、質疑応答の時間に感じました。  その他、現地で複数のメディアの取材を受け、書店イヴェントにも参加しました。  充実したイヴェントとなり、私自身も実体験を通じて、国際委員会としての活動への理解が深まりましたので、今後も、積極的に日本文学の紹介に努めて参りたいと思います。    ■ 〈お知らせ〉 ◎ インタヴュー、講演録、対談などが読める平野啓一郎公式サイトはこちらから https://k-hirano.com/articles ◎「平野啓一郎の文学の森」について https://bungakunomori.k-hirano.com/about ◎ 「分人主義」公式サイトはこちらから https://dividualism.k-hirano.com/ ◎ 平野啓一郎へのご質問はこちらからお寄せください https://goo.gl/forms/SSZHGOmy2QBoFK7z2 ■ 〈近年の刊行書籍〉 『三島由紀夫論』(2023/4/26刊行) https://www.shinchosha.co.jp/book/426010/ 『死刑について』(2022/6/17刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/4000615408/ 『小説の読み方』文庫(2022/5/11刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/4569902197/ 『ある男』文庫(2021/9/1刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/4167917475/ 『本心』(2021/5/26刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/4163913734 『「カッコいい」とは何か』(2019/7/16刊行) https://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B07V2MDQR5/ 『マチネの終わりに』文庫(2019/6/6刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/4167912902 『本の読み方 スロー・リーディングの実践』文庫(2019/6/5刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/4569768997 エッセイ・論考集『考える葦』(2018/9/29刊行) https://amzn.to/2QuH2Bg 平野啓一郎 タイアップ小説集 〔電子版限定〕 (2017/4/27刊行) https://www.amazon.co.jp/dp/B07252SYDJ ■ メールレター バックナンバー http://fcew36.asp.cuenote.jp/backnumber/hirano/mailletter/ 平野啓一郎公式サイト https://k-hirano.com/ 平野啓一郎公式X(@hiranok) https://x.com/hiranok 作品公式X(@matinee0409) https://x.com/matinee0409 英語版Twitter(@hiranok_en) https://twitter.com/hiranok_en Instagram https://www.instagram.com/hiranok/ LINE https://line.me/R/ti/p/%40hiranokeiichiro note 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